Top Page > 【裏話】 > ブラック人事 > 【ブラック人事】第十五話 カウンセリングアウト

CA2.0の運営・監修サイトなどなど

【ブラック人事】第十五話 カウンセリングアウト

いつも打ち合わせで使うものとは別の部屋に入る。


その部屋に窓はなく、照明も心なしか薄暗い。
部屋の中心に置かれた台卓の両端に椅子が4脚ずつ備え付けられ、
前方には大きなホワイトボードが在った。

『(窓のない、暗い部屋…か。)』


--------------------

「お前さ、もう進退決めたら?」

--------------------


ほんの3ヶ月ばかり前の出来事を思い出す。
僕が転職エージェントを去る事になった日。上司との対決。
あの時も確か、こんな部屋だった。



静谷が僕のノートを顎で指して言う。

「議事の記録を頼む。」

『その前に趣旨について共有しておいて下さい。
 何のための場なのか、具体的に理解していません。』

「ああ。
 運良くプロジェクトに入れた新人が居てね。
 でも現場からの評価が最悪で返品。以来未稼働状態が続いてるんだ。

 午前の会議で営業が手放すと決めたから、
 彼、山崎の“次”を決めるんだよ。」


今から呼ばれる新人は山崎という名らしい。


『ゴールは何ですか?転職先の斡旋ですか?』

僕は質問を続けた。

「いや、そこまではしない。
 自分の言葉で「辞める」と言わせることだな。」

『…キツいですね。双方にとって。』

「お、本音で話すようになってきたじゃないか。
 多分長くなるよ。」

『はい。』



企業のスタンスについてはもう理解している。
それゆえに、僕はそれ以上の追及はすまいと判断した。



           ***


「失礼します…」

扉を開け、山崎が入ってきた。
大柄な体躯だが、大人しそうな男の子だ。


『(あ…)』

顔を上げた彼を見て驚いた。
挨拶回りでプリズンに行った時に会話した人物だったからだ。
僅か1日、望むべくもない再会であることは言うまでもない。


「おお、山崎。お疲れ。
 すまんないきなり呼び出して。

 まぁ座ってくれ。」


「…はい…」


「一応業務状況に関わるミーティングという位置付けで
 人事の人間を同席させるね。」

静谷はそっと僕の存在を告げた。


『…』

何を言っても不適切になりそうな雰囲気の中、
僕は敢えて強張った表情のまま会釈した。


「あ、わかりました。」


山崎が席に付き、沈黙が流れそうになる。
そこで静谷が静寂を破った。


「-で、本題だけど。最近どうだ?」

「え…。
 あ、同期と教えあいながら…学習しています…。」

「そうか。
 現場に居た頃はどうだった?」


「なんか…ご迷惑ばかり掛けてしまっていました。」

「例えばどんな?」



「え…Javaが全くできなくて…」

「他には?」


プログラミング言語ができない。
引け目を感じるのか一つ一つの返答が遅い山崎。
対して、常に彼の語尾にきっかり2秒の間隔で言葉を重ねる静谷。

静谷のギアが切り替わり始めたのを感じる。
“詰め”の基本-間髪を入れない質問だ。



「わからない部分がなかなか質問できなかったり…」

「それはなんで?」


「え…あ…」

「正解がある質問をしてる訳じゃないよ。
 なんでだと思うかを聞いてる。」


山崎に影が増してゆく。

「…皆さん、少し怖くて…聞きにくかった…です。」

「なるほど。
 何で怖かったんだろうな?」




「う…ん、僕がそう…思ってしまっているだけでしょうか…?」
「違うな。」



即答。且つ断言。
隣に居るだけで息が詰まる。



「え…?」

静谷は手元のファイルを眺めている。
山崎は対面にいるので見えないだろうが、
覗いてみると内容は現場からの山崎への評価のまとめのようだった。



「一部現場の意見が上がって来ててな。

 …山崎、お願いされた事とかちゃんとできてたか?」



「あ…はい。」
「違うみたいだぞ。」


また断言。
語尾に掛るかのようなタイミングで切り捨てる。
この会話スタイルは自分が受けるとかなりこたえるだろう。



「え?ちが…?」


「山崎、どうも忘れっぽいみたいだな。

 ≪依頼事項を忘れる≫
 ≪会話した事自体を記憶していない≫
 ≪1分前に話した事が伝わっていない≫
 ≪その場では理解したと返答するので、支障をきたしている≫

 一緒に仕事してる人たちの報告だわ。」



「…」


ここで山崎は言葉を失ってしまう。無理もない。
自分の弱点を認める事は、どれだけ勇気の要ることか。
他者からの剥き出しの評価を受けとめるのは、どれだけ心を切り裂くことか。



『(ダメだ。感情移入してしまう。)』

表情を隠すため、僕はノートに目を落とした。








「どうしてこういう状態になるんだろうな。
 一緒に考えてみるか。」


静谷は立ち上がり、ホワイトボードへ向かった。
これまでのやり取りがまとめられてゆく。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
≪迷惑を掛けている事実≫

【認識の違い】

山崎:Javaができない
   うまく質問ができない     

周り:話が聞けていない
   忘れる
   わかっていないのにわかったと言う

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


「そうだな…≪迷惑を掛けている≫ってのは共通見解なんだろうな。」

「はい…」

「原因を探ろうか。
 周りの意見は一旦いいや。
 まずは山崎が思う原因から考えよう。

 Javaは何でできないんだ?」

「そう…ですね…
 うまく理解ができなくて…」

「何で?」

「…自覚が足りないんだと思います…」

「自覚?何の自覚?」

「自分は…価値を提供して…お金を貰っているっていう…」

「うん。それは正しいな。
 で、何で自覚が足りないの?」

「…甘え…でしょうか?」

「違うんじゃないか?お前真面目だもん。
 それは採用した俺がよくわかってる。」

「え…でも…」

「じゃあ努力してないのか?」

「いえ…
 毎日…家に帰ってから勉強は続けています。」

「してるじゃん。」




確かに山崎はサボるタイプには見えない。
原因はなんだろうか。




「周りからの意見に現れてるんだよな。

 山崎さ、お前“興味”ある?」


「え…?」


「“自覚”の話とかさ、あと報告にもあるんだけど、
 ≪~しないとといけない≫っていう表現が多いんだよ。」

「は…い?」

「例えばさ、スポーツ選手でも何でもいいや。
 凄い人って、どうしてすごくなれるんだろうな?」

「…」

「興味があって、“やりたい”って思ってるんじゃないか?
 だから頭に入るし、忘れないし、伸びるんじゃないか?」

「う…」

「2択で答えてみろ。
 お前さ、Java好き?嫌い?」


「え…いや…」
「どっち?」

「仕…事ですから…それは…」



ガンッ!!!!!!


「仕事だからとか関係ねーんだよ!!!!
 好きなのか嫌いなのかどっちだっつってんだ!!!!」






静谷がいきなり声を荒げ、机を蹴飛ばした。
山崎は驚きと恐怖に肩をすくめる。







-ここで2択の決断を迫る事が静谷のプロットなのだろう。




震えながら山崎は再び口を開く。

「…すみ…ません…嫌い…です…」

「そうか。
 じゃあどうするんだ?」


「…好きになるように…」
「感情は努力では変わらない。」





「え…じゃあ…嫌いでも勉強し…」
「興味がないものは極められない。」


言葉を遮る否定に次ぐ否定。



まるで逃げ場のない袋小路。
山崎は迷い込んでしまったのだ。

室内の温度は上昇しているのに、
彼の顔に赤みが射す事はなかった。




           ***




…どれくらいの時間が経過しただろうか。


ここまで来ると山崎も話し合いの趣旨を直感している。
おそらくは、折れる事が何を意味するのかも。

ホワイトボードには更に追記が成されていた。



〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
≪迷惑を掛けている事実≫

【認識の違い】

山崎:Javaができない
   うまく質問ができない     

周り:話が聞けていない
   忘れる
   わかっていないのにわかったと言う


ITに興味がない。だから覚えられない。
迷惑を掛けたくはない。
どうしたらいいのかわからない。
現場からは外して欲しいと言われている。
現場に入らなければ、経験を積むことができない。

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

目を背けたくなるようなロジックが積み重なってゆく。
静谷が詰め寄り、山崎がピースを吐き出す。

それは、予定された完成系へと向かう。



「どうすんの?

 興味がなくて、
 必要とされなくて、
 努力しても実らなくて、
 学んでも活かす場に行けなくて、

 辛くないか?」


「…つ・らいです…

 でも!」


初めて山崎の声量が上がった。



「でも?どうした?」

「がんばってるんです…
 不安で、夜とか眠れなくて…も。
 
 病院にも行って、薬だってもらってます!」



山崎は心の病を告白した。

ここまで、ここまで追い詰められるものか。
彼の性格上、通院の事など口に出せる筈もなかったのに。

これは静谷にも通じるのはないのだろうか。






「お前…、病院も行ってたのか…」


静谷の攻勢が明らかに緩まった。


「はい…だからまだがんばりたいんです!」


山崎は精一杯想いを伝える。




「どうするんだよ!!!!!!」



「!?」
『!?』



静谷の張り上げた声に思考が止まった。
どうするんだよ?何故?




「お前、このまま人生潰すつもりか?

 薬飲んで、人間関係も悪いなかがんばって、
 でもそれが興味の対象じゃなくて、伸び悩んで!

 お前が一番不幸になる人生じゃないか!!!」




「え…いや…その…」


「ダメだ。納得できない。
 お前が不幸になるってわかってて、どうして続投させられる?」



それは懐柔だった。



僕は静谷の話術と論理展開にただただ唖然とする。

考えさせて、
否定して、
声を荒げて、

そして、労わる。
「お前のために、俺は認めない。」と言う。








           ***









「僕…別な道を…さが…し…ます」













2:17。

山崎は≪自分の口≫でそう発言した。



【現在時刻 02:17】



【登場人物】※全て仮名。年齢・プロフィール等はフィクションです。

僕 :26歳。20代にして2度の転職歴を持つ。
   初めての人事職に期待を持ち、中途入社してきた。

中川:27歳。労務部勤務。
   マニュアル対応の際にセリフが極めて棒読みになる。
   若干オドオドしており、目を見て話さない。

静谷:29歳。イケメン。上智大卒。
   20代だが社歴はかなり古参で、人事実務を統括するマネージャー。
   僕の直属上司。質問をすると必ず結論から答える。

湯川:43歳。セレブ。慶応大卒。
   創業者にして代表取締役社長。
   見た目はおとなしそうで、社長特有のオーラは感じられない。

志垣:38歳。一見カタギではない。学歴不明。
   創業メンバーで、現在は営業を統括する社のナンバー2。
   初対面こそ衝撃的だが、NGワードさえ踏まなければ意外に絡みやすい。

西野:35歳。人事領域担当役員。国際基督教大学卒。
   32歳の時に自社に役員待遇で引き抜かれた敏腕コンサル。
   沈着冷静。必要な時以外は滅多に口を開かない。

郷田:28歳。リストラ候補の人事部員。学歴不明。
   前職は健康食品販売会社営業。彼もまた転職者だった。
   自社には営業職として入社するも、1ヶ月で人事に左遷された伝説を持つ。

小森:24歳。新卒採用担当。早稲田大卒。
   新卒入社1年目。年度唯一の人事部配属となった。
   天然ぽい雰囲気と明るいキャラを持ちつつ、発言は鋭い。

山崎:23歳。システムエンジニア。中央大学卒。
   ITコンサルタントを夢見て入社した新入社員。
   大柄の体型とは裏腹に、控え目で実直な青年。

CA2.0的トップ3転職エージェント

マイナビエージェント
高選考突破率のマイナビ

アイデムスマートエージェント
人材ビジネス40年の歴史を持つ老舗

Spring転職エージェント
企業と個人を同じエージェントが担当 byアデコ


* *

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...
RSS twitter livedoorクリップ Buzzurl Google Bookmarks delicious Yahoo!ブックマークに登録 はてなブックマーク はてなブックマーク
Comments
Add a comment


管理者にだけ表示を許可する

 | BLOG TOP | 

CA2.0的トップ3転職エージェント

ピックアップ

登録すべき転職エージェント

IT系に強い転職サービス

業界・職種特化の転職エージェント

登録すべき転職サイト

利用すべき業界情報サイト

カテゴリ

タグクラウド

月別アーカイブ

最新コメント

プロフィール

CA2.0

Author:CA2.0
ようこそいらっしゃいませ。
人の就職・転職相談にのるのをライフワークにしてます。
元転職業界人であり、就活時代は面接200社経験しました。

転職活動は都度2回経験、こちらも延べ100社超に挑戦。
圧倒的な物量の中、見えてきた法則を発信しています。

自己紹介記事

サイト内検索

転職求人の横断検索

転職求人横断検索 * 転職コンシェル
転職求人をあらゆるサービスから横断検索して表示する、超捗るサイト

最新記事

RSS

転職エージェントで働いてたけど何か質問ある?のRSSフィード

あわせて読みたい

あわせて

リンク

はてブすべきページ